東慶寺は鎌倉時代、八代執権北条時宗の正室覚山尼によって北鎌倉に開山された寺院です。現在の住職は男性ですが、明治時代までは本山を持たない独立した尼寺でした。皇族の女性や大名の息女が代々住持(住職)を勤めた格式高い寺院です。江戸時代は、群馬の満徳寺と共に女性の離婚を支援する縁切り寺の役割を担いました。
今回は、東慶寺の魅力や見どころをご紹介します。
女性を救い続けた
寺院の歴史
東慶寺は江戸時代、現在よりもずっと立場が弱かった女性たちを救い続けてきました。ここでは、そんな東慶寺の歴史をご紹介します。
開山から江戸時代までの歴史
東慶寺は覚山尼によって開山されて以来、執権・将軍の妻女や皇族の女性など位の高い方々が住持(住職)になってきました。そのため、住持は御所様と呼ばれ、寺領(寺の領地)も広かったと伝えられています。
住持を勤めた女性の中で特に有名なのが天秀尼です。天秀尼は豊臣秀頼の娘で徳川家康の息女千姫の養女でした。彼女は7歳で東慶寺に入り、二十世住持になります。
1639年に会津騒動が起きた際、東慶寺に逃げてきた掘主水の妻子をかくまって引き渡しの要求にも断固として応じませんでした。天秀尼の働きにより、妻子の命は助かります。東慶寺が縁切り寺の役目を担いはじめたのはもう少し後のことですが、この頃から立場の弱い女性を助けていたことがわかる逸話です。
江戸時代以降の歴史
江戸時代になると、東慶寺は夫の横暴に苦しむ女性の避難所となります。この時代女性から離婚を申し出ることはできませんでしたが、縁切り寺に逃げ込めば離婚を申し込めました。この頃の東慶寺には寺役所があり、妻の言い分と夫の言い分を聞いて教義の上離婚を成立させたと伝えられています。
東慶寺は縁切り寺の役目を明治時代まで担い続けました。明治になると東慶寺は寺領のほとんどを政府に没収され、尼寺としての役割も終えます。その後、現在まで男性が住持を勤めるようになりました。
格式が高かった
東慶寺の見どころ
長い歴史を持ち格式が高かった東慶寺には、境内の自然以外にも見どころがたくさんあります。ここでは、その中でも一押しの見どころをご紹介しましょう。
女性たちが駆け込み続けた山門
茅葺屋根のこぢんまりとした山門は江戸時代に多くの不幸な女性を守ってきました。豊かな自然に囲まれた山門の佇まいは、落ち着いた風情を感じさせます。
茅葺屋根の鐘楼
山門と同じく鐘楼も茅葺屋根です。鐘楼の天井には風化が進んでいますが龍の絵が描かれています。吊るされている鐘は室町時代初期に作られたものです。
茶の湯好き達の社交場茶室 寒雲亭
茶室 寒雲亭はかつて裏千家にあった建物です。960年(昭和35年)に堀越家の寄進によって境内に移築されました。風雅な建物でしたが、老朽化によって1994年(平成6年)に大改修が行われます。
東慶寺では茶の湯の体験会や茶道教室が開かれているため、寒雲亭は茶の湯好きの方々の社交場として親しまれている場所です。
御所寺の面影を残す書院
本堂の右隣にある書院は、歴史を感じさせる風格ある建物です。関東大震災で倒壊しましたが、2年後に再建されました。格天井には御所寺(皇族が住職を務めた寺院)であったことを示す十六菊花紋が描かれています。(非公開)
方形造りの屋根が美しい本堂
泰平殿と名付けられた本堂は、法隆寺の夢殿と同じ方形造りの屋根が美しい建物です。1935年(昭和10年)に建造され、本尊の釈迦如来坐像が祀られています。
水月観音菩薩半跏像を祀る水月堂
水月堂は元々加賀前田家の持仏堂だった建物を、境内に移築したものです。お祀りされている水月観音菩薩半跏像は水辺に映る月を眺めている姿のため、普通の半跏像よりやや首が下の方を向いています。神奈川県の指定文化財に選ばれており、拝観には事前の申し込みが必要です。
立礼茶室 白蓮舎
立礼とはテーブルといすで行なう茶道のことです。白蓮舎では毎年梅やハナショウブが見ごろの時期を迎えると茶店が開かれ、多くの方がお茶と上生菓子を楽しみながら梅やハナショウブを観賞します。
白蓮舎は茶事の他に写経会などいろいろな催し物の際にも使用される場所です。
寺宝が展示されている松ヶ岡宝蔵
松ヶ岡宝蔵には東慶寺伝来の寺宝や縁切り寺だった頃の資料が収蔵・展示されています。特に、縁切り寺に関わる寺法書や呼び出し状・駆け込みの実例を記した松ヶ岡日記は一見の価値ありです。
時間が許せば
おすすめ
東慶寺の境内は自然が豊かで1年を通じて様々は花が楽しめます。その他、いろいろな体験会が行われる寺院としても有名です。ここでは、東慶寺の魅力についてご紹介しましょう。
境内の草花を観賞する
東慶寺の境内にはたくさんの草花が植えられ、四季折々に美しい花を咲かせます。その中でも特に有名なのが、ハナショウブとイワガラミです。
イワガラミとはアジサイ科のつる植物で、岩に絡みつくように成長して花を咲かせます。東慶寺では、本堂裏の岩壁一面にイワガラミが生育していることで有名です。毎年6月の開花時期になると特別公開が行われ、花のカーテンのような光景を一目見ようと大勢の方が訪れます。
この他、ハナショウブが満開になる6月上旬には境内の立礼茶室「白蓮舎」で抹茶と上生菓子が楽しめる茶店が開かれ、美しい花を眺めながら喫茶ができると人気です。
体験教室に参加する
東慶寺では月1回開かれる坐禅会をはじめ、写経体験・香道体験・茶道体験などが開催されています。坐禅会は申し込み不要です。早朝の会と午後の会があり、好きな方に参加できます。
坐禅会以外は事前に申し込みが必要です。申し込み方法や参加の際の注意点は公式サイトに記載されています。日本の伝統文化を気軽に体験できる会として好評です。
東慶寺の
年間行事
長い歴史を持つ東慶寺では、1年を通じていろいろな行事が行われています。ここでは、参拝客でも参加できる行事をご紹介しましょう
花まつり
毎年4月8日に行われるお釈迦様の誕生を祝う会です。東慶寺では、花御堂にお祀りしているお釈迦様に甘茶をかける行事が行われます。お釈迦様の像の周りは境内に咲く花で美しく飾られており、とても華やかです。この日は参拝客にも甘茶がふるまわれます。
除夜の鐘
12月31日の午前0時から有料で鐘楼の鐘を撞くことができます。1年の厄を払い気持ちも新たに新年を迎えたいという方が大勢訪れる行事です。
東慶寺
まとめ
いかがでしたか? 今回は東慶寺の魅力や見どころをご紹介しました。江戸時代に縁切り寺として多くの女性を受け入れてきた寺院は、現在では日本の伝統文化を手軽に体験できる場所として多くの方に親しまれています。坐禅や写経は堅苦しく考え過ぎず、心を落ち着けて自分を見つめ直したいというときに参加するのがおすすめです。
東慶寺
アクセス情報
住所:神奈川県鎌倉市山ノ内1367
電話番号:0467-33-5100
拝観時間:8時30分~17時(11月~2月は16時まで)
拝観料:大人200円 小中学生100円
駐車場:専用のものはなし
交通案内:JR横須賀線北鎌倉駅より徒歩4分
公式サイト:http://www.tokeiji.com/