奈良県宇陀市にある室生寺(むろうじ)は、真言宗室生寺派の大本山です。江戸時代から女性の参拝が許されており、女人高野という別名でも知られています。奈良随一のシャクナゲの名所で、毎年4月上旬には美しい花を見るために大勢の参拝客が訪れます。
この記事では、室生寺の魅力や見どころ・歴史・アクセス方法などをご紹介しましょう。
奈良時代から続く
室生寺の歴史
室生寺は、修験道の開祖である役小角(えんのおづの)が創建し、空海(くうかい)が中興(再び盛り立てること)したといわれています。日本書紀にも、「奈良時代末期にこの地で桓武天皇の病気平癒祈祷が行われ、無事に病気が治った記念として創建された」という記述があり、千年以上の歴史を持っていることは確かです。
室生山の麓から中腹にかけて伽藍が展開されており、今のような状態に堂宇が整ったのは9世紀前半と推測されています。創建当時から興福寺とつながりが深く、長い間法相宗の寺院でした。それが江戸時代になると、五代将軍徳川綱吉の母、桂昌院(けいしょういん)の力添えで、興福寺から独立して真言宗の寺院となります。
本来、真言宗は戒律が厳しく、女性が寺院に入ることは許されていません。しかし、室生寺は桂昌院とのつながりができたことから特別に女人の参拝が許され、これ以後、女人高野と呼ばれるようになりました。桂昌院は室生寺を独立させるだけでなく、堂宇を修理するための寄付も行っています。
1964年には真言宗豊山派から独立し、真言宗室生寺派の大本山になりました。
参拝者が絶えない
室生寺の魅力
室生寺は室生寺山中にある寺院で、奈良市内からも距離があります。それでも、参拝者が途切れることはありません。この項では、そんな寺院の魅力をご紹介しましょう。
平安・鎌倉時代の仏像群
室生寺の金堂・弥勒堂・本堂には、平安時代や鎌倉時代に作られた仏像が複数安置されています。いずれも国宝や重要文化財に指定されている逸品です。中でも本尊の釈迦如来像は国宝に指定されており、衣に刻まれた独特の衣紋(いもん)は室生寺様式(漣波式)と呼ばれています。また、本堂に安置されている如意輪観音菩薩像は日本三大如意輪として有名です。
春のシャクナゲ
室生寺は、シャクナゲの名所としても有名です。毎年4月上旬になると、境内のあちこちに見事な大輪の花が咲きます。五重塔付近は特にシャクナゲが密集しており、歴史ある建物との組み合わせも美しいものです。この時期は桜も咲きますので、気候によっては桜とシャクナゲが同時に楽しむことができます。
秋の紅葉
室生寺は、秋の紅葉も見事です。特に鎧坂の下から見上げる紅葉は絶品で、シーズンにはたくさんの参拝客がここで足を止めて紅葉に見入ります。この時期はライトアップも行われるので、昼間だけでなく夜間の拝観も可能です。夜の紅葉や堂宇も風情があります。
室生寺境内の
見どころ
室生寺の境内には多数の見どころがあります。この項では、その中でも特に観光客に人気のあるところを厳選してご紹介しましょう。
太鼓橋
太鼓橋は、室生寺の境内と参道をつなぐゆるやかなカーブを描いた橋です。朱塗りの欄干が印象的で、付近には三宝杉(さんぽうすぎ)と呼ばれる樹齢500年を超える三本の大杉が立っています。
現在の橋は、昭和30年代に建てられたものです。橋近辺からは、春は桜、秋は紅葉が臨めるため、写真を撮る方もたくさんいます。
表門
表門は大きな茅葺屋根が特徴の門です。現在は閉じられており、通行することはできません。表門前に立っている石碑には、「女人高野室生寺」の文字と、江戸幕府五代将軍綱吉の母、桂昌院の紋が刻まれています。
仁王門
仁王門は江戸時代初期に一度火災で焼失しており、現在の門は1965年(昭和40年)に再建された二層のものです。朱塗りの柱と白い壁のコントラストが美しく、安置されている仁王像にも彩色が残っています。
バン字池
仁王門をくぐると左手に見えるのが、バン字池です。梵字の「バン」の形をした池で、大日如来を表わしています。周囲の木々は秋の紅葉が見事です。
鎧坂
鎧坂は、自然石を積み上げて造られた石段です。積み上げた石が、編み上げられた鎧のように見えることから鎧坂と名付けられました。この坂を上ると金堂や弥勒堂・本堂があります。坂の両脇には、シャクナゲや紅葉する木々が植えられており、春と秋に見ることのできる景色はとても美しいものです。
弥勒堂
弥勒堂は鎌倉時代前期に建立された建物で、重要文化財に指定されています。入母屋造りで杮葺(こけらぶき)の屋根を持ち、周囲に縁を張り巡らせた素朴な造りです。江戸時代に大幅な改修工事が行われており、内部には厨子に入った弥勒菩薩像と釈迦如来坐像を安置しています。
弥勒菩薩像は平安時代前期に作られたもので、一木のカヤから彫り上げられているのが特徴です。釈迦如来座像も平安時代前期の作で、現在は国宝に指定されています。
軍荼利明王石仏
軍荼利明王石仏(ぐんだりみょうおうせきぶつ)は、金堂前庭の手前にある苔むした岩に彫られた石仏です。10本の腕を持つ軍荼利明王は珍しく、4年に一度巡ってくる庚申の日には地域の方々が参拝に訪れます。
金堂
金堂は、平安時代に造られ、江戸時代に正面の高床一間通りが増築された建物です。現存している平安時代初期の仏堂は極めて貴重で、1952年には国宝に指定されました。屋根にある蟇股(かえるまた)という装飾部分に薬壺が描かれていることから、元は薬師堂だったと考えられています。
金堂に安置されているのは、本尊釈迦如来立像・十一面観音像など6体の仏像と、伝帝釈天曼陀羅(でんたいしゃくてんまんだら)です。いずれも国宝や重文に指定されています。中でも本尊の釈迦如来立像は元々薬師如来像として作られたもので、光背に描かれている七仏薬師(しちぶつやくし)が見事です。
潅頂堂
本堂は潅頂堂(かんじょうどう)とも呼ばれている建物で、1308年に建立されました。五間四方入母屋造りで、和様と大仏様の折衷様式です。潅頂とは真言密教の最も大切な法義の一つで、室生寺ではこの建物で行われています。
なお、本堂の扁額には悉地院(しっちいん)と刻まれていますが、これは室生寺の正式名称です。本堂には如意輪観音菩薩像が安置されており、仏像は重要文化財、本堂は国宝に指定されています。
五重塔
室生寺の五重塔は高さが16.22mしかなく、屋外に建つ五重塔としては日本最小です。室生寺を代表する建築物で、現在は国宝に指定されています。法隆寺五重塔に次ぐ歴史を持ち、一層目と五層目の大きさがほとんど変わらないのが特徴です。塔の最上部に九輪という飾りがついており、その上に宝瓶と天蓋・竜車・宝珠を掲げる珍しい形となっています。
奥の院
奥の院は室生寺の最も奥まった場所にある建物群で、五重塔の後ろから無明橋を渡り、300段以上ある階段を登ったところにあります。
御影堂
御影堂は弘法大師空海を祀るお堂で、太師堂とも呼ばれています。方業造で板葺の屋根を持ち、内部に安置されているのは弘法大師が42歳の姿を象った像です。屋根の上には露盤と宝珠があり、日本各地に現存する太師堂の中では最古級のもので重要文化財に指定されています。
七重石塔
七重石塔は、御影堂の傍らにある諸仏出現岩の頂上に立つ石塔です。素朴な石塔で、古い時代の信仰を今に伝えています。
室生寺
まとめ
今回は室生寺の魅力や見どころについてご紹介しましたが、いかがでしたか? 室生寺は1998年(平成10)年に発生した台風10号で大きな被害を受け、近年になりようやく修復が完了し元の姿を取り戻しました。室生寺は山深い場所にあるため、奈良市内から訪れるのにも時間がかかります。そのため、1日拝観に当てるつもりで訪れるのがおすすめです。なお、平地より早い時期に雪が降ることもありますので、車で訪れる際には注意してください。
室生寺
アクセス情報
住所:奈良県宇陀市室生78
電話番号:0745-93-2003
拝観時間:8時30分~17時(12月~3月は9~16時)
拝観料:大人600円・子ども400円
駐車場:あり
交通案内:近鉄室生口大野駅から室生寺行バス乗車、終点下車、徒歩5分
公式サイト:http://www.murouji.or.jp