奈良県桜井市にある長谷寺(はせでら)は、真言宗豊山派の総本山です。奈良県と三重県伊勢市を結ぶ初瀬街道を見下ろす初瀬山中腹に伽藍が築かれており、牡丹の名所としても知られています。また、牡丹以外にも四季を通じて様々な花が楽しめることから、花の御寺という別名も有名です。
この記事では、長谷寺の魅力や見どころをご紹介しましょう。
古典にも登場する
長谷寺の歴史
長谷寺は8世紀前半に徳道上人(とくどうじょうにん)によって建立されたと伝えられていますが、詳しい資料等は残っていません。長谷寺が有名になったのは観音信仰が盛んになった平安時代中期のことと考えられ、摂関政治で有名な藤原道長も長谷寺を参拝していたようです。また、更級日記や源氏物語などの古典文学にもたびたびその名前が登場しています。ちなみに、源氏物語の玉鬘に登場する二もとの杉は、今でも境内に現存する大木です。
その後、時代が下るにつれて徐々に衰退していきましたが、1588年、豊臣秀長の招きで専誉(せんよ)僧正が入山したことによって転機が訪れます。専誉は元々和歌山県にある根来寺(ねごろじ)という寺院の僧侶でした。根来寺は室町時代末期から強大な軍事力を有していましたが、織田信長や豊臣秀吉との戦いで焼き討ちにされてしまいます。しかし、根来寺の僧侶たちは、専誉を頼って長谷寺に入山し、真言宗豊山派を築き上げました。
現在は、四季折々の花が楽しめる寺院として、多くの参拝客が訪れる寺院となっています。
信仰を集め続けた
長谷寺の魅力
長谷寺は、平安時代から観音信仰の中心地として人々の信仰を集め続けてきました。また、牡丹や桜が見事な場所としても有名です。この項では、そんな長谷寺の魅力をご紹介しましょう。
四季の花々
長谷寺がある初瀬山は、牡丹の名所として古くから有名でした。長谷寺の境内にも150種類以上、7千株もの牡丹が栽培されています。毎年牡丹が見頃になる4月中旬から5月上旬までは長谷寺ぼたんまつりが開催され、ぼたんの鉢植えが当たる抽選会や茶会などが人気です。ぼたんまつりに合わせて寺宝の特別公開も行われます。
長谷寺は牡丹以外にも四季折々の花が楽しめる場所です。牡丹の見頃が終わるとアジサイが咲き誇り、盛夏の頃はサルスベリやキョウチクトウが見頃を迎えます。秋には紅葉が楽しめ、冬には寒牡丹や寒桜・南天が見事です。
本堂にある舞台からの絶景
長谷寺の本堂には、京都の清水寺とよく似た舞台があります。ここからは長谷寺の伽藍や周辺の山々が一望でき、絶好の写真撮影スポットとしても参拝者に人気です。特に夏は、伽藍の黒い瓦屋根と木々の深緑の美しいコントラストが楽しめます。
日本最大級の木造観音菩薩像
長谷寺の本尊は、高さが約10mもある木造の十一面観音菩薩像で、平安時代から人々の信仰を集め続けてきている日本有数の観音像です。国内では最大級の大きさで、人々に祟りをなすご神木を仏像に加工して祟りを鎮めたという伝承が残っています。錫杖を持つ独特の形は、長谷寺式十一面観音と呼ばれるものです。毎年春と秋には巨大な観音像の足指に触れられる特別拝観が行われるので、この時期に合わせて訪れるのもよいでしょう。
長谷寺境内の
見どころ
長谷寺には、国宝に指定されている本堂をはじめ、見どころがたくさんあります。この項では、境内の見どころの中でも特に必見の場所をご紹介しましょう。
仁王門
重要文化財に指定されている仁王門は、長谷寺の総門で、入母屋造り本瓦葺の楼門(二階建て)の門です。一階には仁王像が安置されており、二階には釈迦三尊像と十六羅漢像が安置されています。現在の仁王門は894年(明治27年)に再建されたものです。
登廊
登廊(のぼりろう)は、平安時代末期の1039年に春日大社の社司、中臣信清(なかとみののぶきよ)が子どもの病気平癒を願って建てたものです。その名の通り登り坂の廊下になっており、床は399段の石段となっています。上・中・下の三廊に分かれていて、中・下廊は1894年(明治27年)に再建されました。現在は重要文化財に指定されています。
長谷六坊
長谷六坊(はせろくぼう)は、長谷寺の子院の総称です。江戸時代には各寺院が様々な役割を分担し、長谷寺の運営において重要な役割を担ってきました。現在は一院が廃院となり、5つの寺院が残っています。内部を拝観できる寺院もあるので、立ち寄ってみるのもおすすめです。
歓喜院
歓喜院には、昭和寮と呼ばれる多目的な建物が付随しています。春には初瀬桜、夏はキョウチクトウが美しい場所です。参拝者が訪れることの少ないところなので、ゆっくりと花が楽しめます。
宗宝蔵(清浄院)
宗宝蔵は、長谷寺の寺宝を保管する宝物庫です。以前はここに長谷寺六坊の一つである清浄院という寺院がありました。毎年春と秋には寺宝を公開する特別展が開催されます。
梅心院
梅心院は、僧侶を養成する学校がある寺院です。徳川家光が長谷寺を参拝した記念に建立されました。
月輪院
月輪院には、紀貫之の叔父にあたる雲井坊浄真という人物がこの辺りに住んでいたという伝説が残っています。雲井寮という建物は、雲井坊浄真にちなんで名づけられました。現在はお茶席が設けられており、有料でお茶と干菓子が楽しめます。
慈眼院
慈眼院は、1665年に長谷寺の第八代住職によって建立された寺院です。
金蓮院
金蓮院は、牡丹に囲まれた寺院です。毎年牡丹の花と白い塀のコントラストが楽しめます。
二もとの杉
二もとの杉は、月輪院と宗宝蔵の間にある小道をしばらく進んだ場所にあります。二本ある杉の根元が重なって見えることから、この名がつきました。古今和歌集や源氏物語にも登場することから、昔から人々の注目や信仰を集めていたことが分かります。昔は、この二もとの杉近辺が長谷寺の入り口でした。現在は、周囲に梅やツバキがたくさん植えられています。
天狗杉
天狗杉は、の第十代住職である英岳師(えいがくし)の逸話からその名が付けられました。英岳師が修行に励んでいた頃、境内に天狗が出て灯りを消して歩くいたずらをしていたといいます。英岳師は、天狗のいたずらに負けないように勉学に励み、やがて長谷寺の住職になりました。英岳師が住職になった後、諸堂の修理に天狗杉近辺の木々を伐採する話が持ち上がりますが、この時、英岳師は天狗のためにこの杉を残したといいます。これ以後、この杉は天狗杉と呼ばれるようになったということです。
蔵王堂
蔵王堂は、蔵王権現という仏様を祀るお堂です。かつて吉野山からここに虹がかかり、3体の蔵王権現が歩いて渡ってきたという伝説に基づいて建てられました。
蔵王堂近辺には、ここで平安時代末期の僧侶兼歌人の西行法師とその妻が再会したことに由来して建立された縁結びの社、紀貫之が歌を詠んだと伝わる「貫之の梅」があります。2月中旬には梅が見頃を迎えるので、その時に訪ねてもいいですね。
愛染堂
愛染堂は、愛染明王を祀るお堂です。1558年に再建されました。愛の文字から、縁結びや家庭円満のご利益がある仏様として参拝者の信仰を集めています。
本堂(観音堂)
本堂は、本尊である十一面観音菩薩像を祀っている観音堂で、初瀬山中腹の断崖絶壁に懸造(かけづく)りされています。創建は奈良時代ですが、計7回も焼失しており、現在の堂宇は1650年に徳川家光の寄付によって再興されたものです。外陣・内陣・内々陣という3つがある複雑な造りで、観音菩薩像が安置されている内々陣は、それ自体が仏像を納める大きな厨子となっています。
現在は国宝に指定されており、舞台から一望できる初瀬山の景色が人気です。
大黒堂
大黒堂は、七福神の1人大黒天を祀るお堂です。長谷寺の大黒天は、大和七福神八宝霊場の一つにもなっています。大黒天には直接触れて参拝できるので、本堂と共に参拝客が絶えません。
開山堂
開山堂は、長谷寺を開いた徳道上人(とくどうじょうにん)を祀っているお堂です。徳道上人には、生前に重い病にかって仮死状態になり、閻魔大王に面会して観音菩薩の信仰を広めよというお告げを受けたという伝説が残っています。このお告げに従い、上人はる西国三十三所を開きました。これは、近畿一円にある観音菩薩を祀った寺院を巡礼するもので、最古の巡礼とされています。ちなみに、長谷寺は第八番札所となっており、現在でも巡礼者が絶えることはありません。
本長谷寺
本長谷寺は、天武天皇の命令で徳道上人が作った最初の堂宇です。現在の本堂に対し、本長谷寺と呼ばれています。かつては、銅板法華説相図(どうばんほっけそうぞうず)が本尊として祀られていました。現在、これは国宝に指定され、奈良国立博物館へ寄託されています。
五重塔
五重塔は、1949年(昭和29年)に建立された伽藍の中では新しい建物です。戦後初めて建立された五重塔で、その美しさから昭和の名塔と呼ばれています。特に周囲の自然との調和は見事です。
三重塔跡
三重塔は豊臣秀頼によって再興されましたが、1876年(明治9年)により落雷によって焼失してしまいました。現在は、跡地に看板が立てられています。
本願院
本願院は、長谷寺を開山した徳道上人(とくどうじょうにん)が隠棲した建物です。かつては聖武天皇の勅願(天皇がお願い事をすること)寺でした。現在の建物は、1533年に再建されたものです。
奥の院
奥の院は、仁王堂から向かって左手に位置する建物の一群です。真言宗を盛り立てて高野山を復興し、真言宗中興の祖として讃えられた興教大師(こうぎょうだいし)を祀る興教大師祖師堂や、陀羅尼堂・歴代住職の墓所などがあります。開山堂経由で伽藍を一回りした際に、終着点となる場所です。
本坊
本堂は大講堂や書院を併せ持つ寺務所です。徳川将軍家の寄付によって建立されましたが、明治時代に炎上してしまいました。現在の建物は1924年に再興されたもので、奈良県の有形文化財に指定されています。
長谷寺
まとめ
いかがでしたか? 今回は長谷寺の見どころや魅力をご紹介しました。奈良の中心部から若干離れた場所にありますが、時間をかけて訪れる価値のある寺院です。また、期間限定ではありますが室生寺との直通バスも走っており、丸1日かけて両方の寺院を見学することもできます。伽藍全体が山の中に建っているため、拝観には歩きやすい靴を履いて訪れるのがおすすめです。
長谷寺
アクセス情報
住所:奈良県桜井市初瀬731-1
電話番号:744-47-7001
拝観時間:8時30分~17時(季節により変動あり・ぼたんまつり中は拝観時間延長あり)
拝観料:中学生以上500円・小学生以下250円
駐車場:あり
交通案内:近鉄大阪線長谷寺駅より徒歩15分
公式サイト:http://www.hasedera.or.jp/