京都市右京区にある退蔵院は妙心寺の塔頭寺院です。塔頭とは大寺院の敷地内に建立された小寺院のこと。退蔵院は妙心寺三世である無因宗因(むいんそういん)が開山したため、塔頭寺院の中でも別格として扱われています。国宝である瓢鮎図(ひょうねんず)を所蔵している寺院としても有名です。
この記事では、退蔵院の魅力や見どころをご紹介しましょう。
寺格が高い
退蔵院の歴史
退蔵院は、1404年に越前(福井)の豪族である波多野重通(はたのしげみち)が、妙心寺三世の因宗因(むいんそういん)を開山者に迎えて建立した寺院です。妙心寺では開山者から六世までを六祖と呼び、禅師たちが開いた塔頭寺院を六祖道場と言って別格扱いしています。
退蔵院は1467年の応仁の乱による戦火によって焼失してしまいました。その後、1597年に亀年禅師(きねんぜんじ)によって再興されます。
これ以降、退蔵院は今日まで目立った衰退や荒廃をすることはありませんでした。現在は、庭が美しい寺院として知られています。
花が豊富な
退蔵院の魅力
退蔵院は国宝を所蔵しているだけでなく、花が豊富な寺院としても知られています。ここでは、そんな寺院の魅力をご紹介しましょう。
季節を彩る花々
退蔵院の花というと紅しだれ桜が有名ですが、その他にも季節ごとにいろいろな花が楽しめます。ツバキやアジサイ・キンモクセイといった名が知れた花からテッセンやフジバカマといった園芸好きに好まれる花まで、その数は豊富です。境内を歩きながらどんな花が咲いているのか観察してみても楽しめます。
余香苑でお抹茶を楽しむ
退蔵院では池泉回遊式庭園の余香苑(よこうえん)を眺めながら、抹茶とお菓子を有料でいただけます。お菓子は退蔵院オリジナルの「もちどら」というもので、ここでしか食べることができません。小豆あんをはちみつともち米を加えた小麦粉製の生地で包んだお菓子で、片隅に押されたなまずの焼き印がかわいらしいですよ。
余香苑は名高い庭園に勝るとも劣らない美しい庭園ですが、訪れる方はぐっと少ないので、いつ訪れてもゆっくりとお茶とお菓子をいただきながら庭園観賞を楽しめます。
退蔵院オリジナルのお土産
退蔵院では、オリジナルのお土産を販売しています。お線香や瓢鮎図をモチーフにしたグッズ・練香水など、種類が豊富で、訪れた記念だけでなくご家族や友人へのお土産にもおすすめです。一押しは石けんで、退蔵院の庭で採れた柚子やハスの実が使用されています。
国宝を有する
退蔵院の見どころ
退蔵院は国宝の瓢鮎図が最も有名ですが、それ以外にも見どころがあります。ここでは、瓢鮎図を含めた境内の見どころをご紹介しましょう。
京都府有形文化財に指定された山門
退蔵院の山門は薬医門と呼ばれる形状のもので、バランスのとれた美しい姿をしています。薬医門は元々高貴な薬医の家に造られていた門で、親柱二本と控え柱二本で屋根を支えているのが特徴です。1985年(昭和60年)には京都府の有形文化財に指定されました。
袴腰造りの大玄関
退蔵院の玄関は、袴腰造り(はかまごしづくり)と呼ばれる唐破風造り(からはふづくり)の一種で造られています。唐破風が曲線で構成されているのに対し、袴腰は直線で構成されているのが特徴です。この折れ具合がちょうど袴の腰部分のように見えるので、この名がつきました。
1966年(昭和41年)に国の重要文化財に指定されています。大玄関は江戸時代初期の富豪、比喜多宗味居士(ひきたそうみこじ)によって寄進され、高貴な方が寺院を訪れた時や法要の時にだけ使用されました。
内部は非公開の方丈と瓢鮎図
現在の方丈は1597年に再建されたものです。江戸時代に宮本武蔵が修行に励んだ場所としても知られています。通常内部は非公開で、玄関から見学は玄関から内部を垣間見る形です。大玄関と同じく国の重要文化財に指定されています。
方丈南面に展示されているのは、国宝瓢鮎図(ひょうねんず)のレプリカです。室町時代に活躍した画僧・如拙作で、室町幕府将軍である足利義持の命によって描かれたと伝えられています。
鮎という字は日本においては魚の鮎を意味しますが、中国ではナマズを意味する字です。瓢鮎図は禅の公案(課題)を絵にしたもので、「ヒョウタンのようにツルツルしたもので、ナマズを押さえる方法とは」という難しい問題をどう解決するのか? という問いかけを表わしています。
絵の上部に描かれている文は、この問いかけに対する答えを詩の形にして書いたものです。30人の高僧が、答えを考えて記したと伝えられています。
室町時代に造られた元信の庭
元信の庭は、室町時代に活躍した狩野元信によって作庭された枯山水庭園です。元信は画聖と呼ばれた高名な画家で、70歳近くでこの庭を造ったと伝えられています。画家が作庭した庭というのは珍しく、1931年(昭和6年)には国の名勝史跡庭園に指定されました。絵画的な優美さと独特な風格を併せ持つ庭で、白砂の上に点在する石と緑のコントラストが見事です。
砂が2色使われている陰陽の庭
陰陽の庭には白と黒、2色の砂が使われています。これは物事や人の心が持つ二面性を表わしているといわれ、眺めていると想像が膨らむ庭です。
陰の庭には8つ、陽の庭には7つ、計15の石が使われています。石の周囲には苔や植物が植えられ、生物と無機物の対比が美しいですよ。
樹齢50年の紅しだれ桜
紅しだれ桜は退蔵院を代表する花で、余香苑完成時に植えられました。平安神宮にある紅しだれ桜の孫に当たる木です。2013年の春にJR東海の「そうだ 京都、行こう。」キャンペーンで使用され、注目を集めました。見事な大木で枝ぶりもすばらしく、毎年4月上旬から中旬にかけて天蓋のような見事な花が楽しめます。
3年がかりで造られた余香苑
余香苑(よこうえん)は造園家の中根金作氏が設計した池泉回遊式庭園で、1961年(昭和38年)から3年の歳月をかけて作庭されました。全国でも有名な昭和の名園として知られており、紅しだれ桜をはじめとしてたくさんの草花が植えられています。枯山水庭園に比べると躍動感があり、春の桜だけでなく秋の紅葉も見事です。
退蔵院
アクセス情報
住所:京都府京都市右京区花園妙心寺町35
電話番号:075-463-285
拝観時間:9~17時
拝観料:大人500円・小中学生300円
駐車場:妙心寺のものを利用
交通案内:京阪電鉄三条京阪駅より63番・64番・65番バス乗車、妙心寺前下車徒歩5分
公式サイト:http://www.taizoin.com